マルエージング鋼は、航空宇宙、自動車、金型など、強度と靭性が求められる分野で活用される先端素材です。その大きな特徴は「熱処理を加えると一気に強くなる」点にあります。
一方で「難削材」と呼ばれるほど加工が難しく、経験や技術が欠かせません。
マルエージング鋼とは?
マルエージング鋼は、炭素をほとんど含まない鉄にニッケルを多く加えた特殊合金であり、さらにコバルトやモリブデン、チタンといった添加元素を適切に組み合わせることで、高い強度と靭性を実現しています。
1950年代に開発されて以来、航空宇宙や自動車分野で欠かせない材料となってきました。
最大の特徴は、「熱処理(時効処理)」を加えることで内部組織が変化し、強度が大幅に向上することにあります。
時効硬化により、熱処理前は比較的やわらかく加工性に優れる一方、処理後は非常に硬くなり、耐久性や長寿命化が求められる部品に適用できるのです。
- 熱処理前 → 比較的やわらかく、加工がしやすい
- 熱処理後 → 硬さと強さが大きく増す
また、熱処理を行っても寸法変化が小さいため、精密な部品や金型の製造に適しています。
代表的なマルエージング鋼の例
マルエージング鋼にはいくつかの代表的な鋼種があります。
鋼種の違いは含有される元素の割合や熱処理後の硬さに違いがあり、用途や必要とされる特性に応じて選定されます。
大同特殊鋼「MAS1C」
高強度と高靭性を兼ね備え、プラスチック金型用鋼(WNr.1.2709改良相当)としての実績に加え、ゴルフクラブフェース、高強度ばね、スチールベルトなど帯鋼用途でも採用されています。
代表的な化学成分はC≦0.03%、Ni約18.5%、Mo約4.8%、Co約9%(Ti・Al微量)で、熱処理後の高い強度と寸法安定性が求められる製品群に適しています。
プロテリアル(日立金属)「YAGシリーズ」
精密金型や精密部品に適用され、時効処理後でも研削や鏡面仕上げがしやすい特長があります。
代表グレードの一例であるYAG300は、時効処理(目安:480〜520℃)によりHRC約52〜57の硬さを得られ、硬さ・靭性・加工性のバランスに優れます。
さらに高温域でも工具鋼に匹敵する硬さ・強さを維持しやすく、研削性が良好なため仕上げ工程の効率化に寄与します。
用途は精密金型に限らず、信頼性が求められる巻芯・帯鋼系部品や自動車用CVTベルト材等にも展開されています。
加工の難しさとポイント
マルエージング鋼は「熱処理前と熱処理後で性質が変わる」点が特徴的です。
熱処理を行う前は比較的柔らかく切削が容易ですが、内部組織の変化によって時効処理後には急激に硬度が増加し、同時に切削抵抗や摩耗も増えるため、加工条件を大きく変える必要があります。
熱処理工程をどの段階で挟むかによって製造プロセス全体の設計が異なるほど重要です。
- 熱処理前:加工はしやすいが、もともと強度が高いため工具の摩耗が早い
- 熱処理後:硬度が約1.5倍に増し、切削抵抗や切削熱も大きくなるためさらに加工が難しくなる
加工には以下のような工夫が必要です。
- 工具寿命を見越した工具選び
- 切削熱を抑えるための冷却管理
- 材料特性に応じた加工条件の設定
活用事例
マルエージング鋼は、その特性を活かして次のような分野で活用されています。
- 射出成形金型のコンフォーマル冷却インサート
- 高圧ダイカスト用型のインサート/スプルースプレッダ
- 金型のハイブリッド構造(ベース板+AMビルトアップ
- アディティブ・マニュファクチャリング向け金型材料としての採用一般
- 自動車用CVTベルト材
- ゴルフクラブフェース/高強度ばね/スチールベルト
- 航空機ランディングギア等の高応力部品
- ロケットモーターケーシング/圧力容器
- 押出工具/ダイカスト金型/高応力ツーリング
- 高性能シャフト・ギヤ・ファスナー
など
強度や靭性、寸法安定性といった特長が同時に求められる場面で特に力を発揮するため、研究開発分野や試作部品、さらには民生品に至るまで採用が広がっています。
また耐久性を必要とする工具類、さらには過酷な環境下で使用される防衛関連部品などにも適用可能です。
今後も利用範囲が拡大していくことが期待されています。
まとめ
マルエージング鋼は、「熱処理で強くなる金属」という特徴を持ち、幅広い産業で利用されています。
しかし、その分加工は難しく、工具摩耗や精度管理に高度なノウハウが求められます。
弊社は、代表的なマルエージング鋼を含む豊富な加工実績を持ち、とくに金属積層材(3Dプリンター材)の二次加工にも対応可能です。
マルエージング鋼の切削加工に関するご相談は、ぜひユニバーサルにお任せください。